麹町学園様に寄贈しました優秀作品(4作品)のパネルが1Fに飾られたということで、拝見してまいりました。
生徒さん、御来客の方が必ず通る昇降口付近に展示されていました。
優秀賞の第3班と特別賞の第11班の防災地図です。
最優秀賞の第7班と優秀賞の第4班の防災地図です。
この展示をご覧になられた後輩のみなさんが、改めて防災に目を向けてくだされば、本当にうれしいです。
麴町学園女子高の2年生57名に、授業を終えての意識調査にご協力いただきました。まずは地図の使用頻度・認知度に関する質問です。
授業の前の段階で、紙の地図は社会科の授業で触れる程度の方が一番多く、なんとなく知っている、という方がこれに続きます。よく見たり使ったりしている、という方は全体の1割にも満たない状況でした。
これに対し、デジタル地図の使用頻度・認知度は非常に高いものでした。全体の約96%に使用経験があり、「よく使う」という回答も半分以上。地図に触れる機会自体はスマートフォンの普及により、むしろ増えている印象です。
その上で、授業への印象をお聞きしました。
ありがたいことに、28名の方が「非常に面白かった、有意義だった」と回答してくださいました。「ところどころ面白い、興味深い点があった」という回答と合わせると、ほとんどの方に授業に興味を持っていただけたことになります。
印象に残っている授業を複数回答可で挙げていただいたところ、「地図のデザイン、レイアウト原稿、地図作成など実作業の授業」がダントツの43名!やはり手を動かす、実際に作る体験が面白かったようです。
定量的なアンケート項目とともに、自由回答スタイルでも何項目かお聞きしました。その内容について、生徒のみなさんがどう感じ、授業に取り組んだか、何を得たのか、といった部分を深掘りしてみたいと思います。
|| 授業に対する感想
数多く寄せられたのは、地図作りの大変さ、難しさに関する感想です。それゆえ、達成感が大きかった、楽しかった、と感じた方も多かったようです。
◆一つの商品を作る為には多くの時間と知識が必要だと改めてわかった。
◆初めての地図作りで大変なことが多かったですが、地図を作っていくうちに様々な発見があり、とても楽しかったです。
◆地図を作るにあたって、どのようにすれば誰でもわかりやすく使いやすい地図になるのかを考え、情報を集めることが意外に大変で難しかったです。また、デザインや凡例を作って見やすく、いつでも利用しやすくするようなものを班で作る、という達成感を感じました。
次に多かったのは、デザインに関する感想です。一見無機質に見えがちな地図にもデザインが施されていることを知り、それを自分たちなりに応用して地図に反映できたことに手ごたえを感じていますね。
◆将来デザインなどの仕事を目指しているので、地図デザインのお話を聞けてよかったです。自分がよく通る道を深く知る機会になりました。
◆地図を作る時、見やすくロゴなどもだれが見てもわかるように作る工夫をしたり、文字のフォントやデザインなどもしっかり考えたり、グループの子と協力して作ったりして楽しかった。
◆地図を作ると聞いた時、私達で地図を本当に作れるのかと考えていた。やり始めると情報収集やデザインを考えることなど大変な事が多かったがとても楽しく作れた。
防災地図作りを通じて、これまで知らなかった新たな世界を知った喜び、もいくつか挙がっています。
◆最初は自分たちで地図をつくるのは難しそうだと思ったけど、みんなで協力して完成させることができたのでよかった。年代ごとの地図を見ることができるサイト(注:地理院地図サイトなど)を初めて使ったのでおもしろかった。
◆千代田区の理容店(ニッポン放送理容防災ネットワーク)の周りという広い範囲で作るのは大変だったけど、載せる情報をしぼって拡大図も使うなどいろいろ工夫ができた。
◆一枚の地図を作るのに沢山の人の協力が必要だし、「情報を集めるため」の情報を上手にとらえることが重要だと思った。
当社としてうれしい、紙の地図を見直した、という感想もいくつか寄せられました♪
◆普段紙の地図を使う機会がなく、今後も使わないと思っていましたが、授業を受けていくうちに紙の地図のメリットや、電子のものにはない良さを知ることができて楽しかったです。
|| 授業の前後で、防災、地震対策に関する意識、思いがどう変化したか
私たちが一番注目していたのは、この授業前後の意識変化でした。なんとなく持っていた知識、意識が、現地調査や取材、制作実務によって確固たる認識、スキルへと変わったことがうかがえる結果となっています。以下はほんの一例で、ほかにも多くの生徒さんが、とても具体的な、有用な感想を述べてくれました。
◆私の班は坂についての地図をつくったのでこの辺りの坂について詳しくなった。自分の家の周りも坂が多いのでこの知識を活用しようと思った。
◆道を普段歩いているときに「ここ危なそうだな」と考える時間が増えた。
◆地震が起きたらただ避難すれば良いのではなく、事前に混雑する場所などを知っておくことが大切だと思った。
◆普段、普通に歩いている道も、ここは道が狭いな、と思ったり、ここはガラス張りだな、と思ったり、注意して歩くようになった。
◆現地調査に行って、ガラスが割れそうなところ、坂道で人が詰まってしまいそうなところなど、今までは何も考えてなかったけど、たくさん知られてよかった。
◆どのような所に危険性があるのかがよくわかり、自宅の近くや駅などでも、気をつけようと思った。
|| 今後、防災・減災について自分なりに取り組みたいこと
今回、麹町周辺(つまり通学先)の地図を作りましたが、みなさんの意識は、家族や住んでいる地域、身近な場所へと向かったようです。
◆家の防災対策はあまり充分とは言えないので防災グッズなどをしっかり準備しなければいけないと思った。
◆家族間でも、防災や減災について話し合って、もしもの時に備えたいです。
◆自分のよく行く場所や住んでいる地域の避難所や急な坂、危なそう・安全そうな建物をチェックしておきたいと思った。
◆地域のハザードマップを見てみたい。
◆家にある家具の固定や備蓄品を見直すなど、自らできることから取り組みたいです。
◆自宅の周りのAEDや電話がどこにあるかなど調べておこうと思った。
人に伝えたい、という声もいくつか挙がっています。こうした輪が広がるのも、減災にとってとても有効ですね。
◆今回学んだことを自分たちだけでなく周りの人にも教え、より多くの安全を守っていきたいです。
◆災害があった際、周りの人を誘導できるくらい詳しくなりたい。
◆災害時帰宅支援ステーションや給水ステーションなどの場所を知ることができたので周りに伝えていきたいと思います。
これがきっかけとなり、首都直下地震や南海トラフ地震をはじめとする全国各地の地震対策への関心を持った、という感想もありました。すばらしいと思います。
◆首都直下地震、南海トラフのことについて調べたい。
◆大規模な地震がこれから起こるという予想が全国的にされているので、<予想されているから>ではなく、普段から平和に、安全に生活していることの大切さと、自分たちの命を守ることを意識して生活したいです。また自分の住んでいる地域の地図を活用して、どこが危険、安全なのかなど、を家族で確認し合って話をしたいと思いました。
|| このほかの意見、感想
上記以外の自由な意見、感想も募ったところ、みなさん感謝の気持ち、もっといいものを作りたかったという貪欲な思い、今後の人生に役立つ、など、大変ありがたい内容でした。このコーナーの締めとして、ある生徒さんの感想をご披露します。
◆新しい防災地図を本屋さんに見に行って、今回の地図作りが少しでも貢献できた(=何かの参考になった)のかな、とうれしくなりました。
→はい、直接内容を反映したわけではありませんが、2/17出版の帰宅支援マップを作った担当者が、今回の講師として参加していました!みなさんの努力に負けられない、と例年にも増して一生懸命、編集したことをお伝えしておきます。
今回の製品開発体験学習は、麴町学園の特長であるオリジナルのキャリア教育「みらい科」の授業の一環として行われました。
みらい科担当の河越先生は、当初から狙いを定めてこの授業を企画した、と語ります。
「防災地図作りは、学校としてどうしてもそうしてほしい、とお願いしたテーマでした。毎年9月に防災士を招くなどして防災教育に力を入れている当校ですが、電車で首都圏各地から通学してくる生徒が多い関係で、麹町の地域の特性、災害時の状況を想定・把握できている子は少ないのではないか、と常々感じていました。
また、6年ほど前から製品開発体験学習を行うにあたり、近隣の企業様に依頼してきました。それ自体も、自分たちが学んでいる麹町には、社会に貢献しようと日々お仕事にあたっている企業がいくつも立地している、ということ、それがいかに恵まれていて刺激的な環境なのか、肌で感じてもらいたい、という思いからです。
ですので、今回の授業を通じて、防災面だけでなく、麴町学園周辺の地域や企業についてよく知ってもらいたい、と思い、授業を実施しました。各自からのアンケートを見る限り、『地域を知ることができた』『歩いてみると知らないことがいっぱいあった』といった声がいくつも挙がっており、この狙いは概ね達成されたのかな、と大変満足しています」
今回の授業では、相対評価ではなく、オリジナリティや実際のお役立ち度、作成の際のがんばりなどを、できる限り絶対評価的な見方で評価しよう、と言い聞かせていました。
具体的には、企画段階、調査段階、制作段階、それぞれで進捗スピードに差が出ても、そのことでの優劣は一切つけず、コミュニケーションや追加課題等を通じて、各班最後まで粘り強く企画を具現化できるようにするとともに、当社で作成した見本例やよい班の例なども明示して、イメージが湧きやすくなるよう努めました。
また、完成度を見る際にも、単に丁寧・キレイなだけを尺度とせず、ユーザーのためにたくさん調べたり、デザイン・企画面で挑戦していたり、という影の努力やバイタリティを重視しました。それらが感じられれば、仮に手書きの部分が多くてフォントを貼り付けた班より多少見劣りしても、評価を下げていません。
ビジネスの世界では、納期、発売日はもちろん大切ですが、それよりもまず、顧客(ユーザー)にとってよいもの(こと)でなければ成立しません。「役に立つ防災地図とは何か」をとことん考え抜いた経験を、今後に活かしてほしいと思います。
ご依頼をいただき、授業の講師を務めた地図編集部門の担当者は、このように感じています。
「紙の地図に触れることがほとんどない世代だというのは授業を始める前からわかっていたことではあるのですが、実際に地図をお見せして、授業で本作り、地図作りをご説明しても、手応えが正直なくて、これは大変なことを引き受けてしまった、と焦る気持ちがありました。
『スイッチが入ればやる子たちです』という河越先生のお言葉を信じて、試行錯誤しながら結果的にはすばらしい地図を完成させてくれたので、生徒のみなさんには本当に感謝しているし、そのがんばりと出来栄えに心から感動しました。
手を動かす段階になって、やる気がみなぎっているのを感じたので、座学よりも実習を多くすればよかったかな、と反省しています。
いずれにしても、地図の価値を知ってくれた喜びは、地図編集者冥利に尽きます。またこんな体験ができたらよいな、と思いました。ありがとうございました」
協力した他の地図編集部員も、自分たちの地図作りについて見つめ直すよい機会となり、社会に貢献できる地図作りを、という思いを新たにしたようです。
今回の防災地図を評価するに当たり、当社グループの社員に対し評価への協力を呼び掛けたところ、20名の社員が参加してくれました。
参加者からは地図に対する感動、驚きの声が相次ぎました。一部を抜粋してご紹介します。
これまで、教育的な側面から授業を振り返ってきましたが、この取り組みを通じて強く感じたのは「地図作りがいかに防災意識を高め、自分事として災害を捉え直す契機となるか」ということです。
日頃より生徒のみなさんは防災教育を受け、意識をしっかり持っていました。その前提で授業を始めてみると、被害想定、現地調査、取材など各フェーズで、より現実的、実際的な課題、問題に直面しました。
避難できると思っていた道、場所が実は使えないことが判明したり、地域に救急指定の病院があまりなかったり、人が集中して危なそうな箇所が見つかったり…
12の班が真剣に「役に立つ防災地図」を目指した結果、麴町学園周辺地域の状況や被害想定が非常に具体的に、明瞭になり、生徒のみなさんの心構え、事前対策もしっかり整いました。
1班=コロナ禍で浮き彫りとなった避難所の混雑、キャパオーバーに対し、近隣の丈夫な建物への非難が可能であることを図示した
2班=麴町学園からの避難経路について、危険箇所や距離感などを具体的に図示した
3班=被害状況が時間経過とともに刻々と変化していくことに着目し、必要な情報を時系列で図示した
4班=周辺にある非常用電源や太陽光発電の情報を載せることで、ライフラインの中でもとりわけ重要な電力の確保につながる重要情報を図示した
5班=麴町学園からほど近いエリアに絞り、安全な建物・新しい建物、安全な道をワンパッケージで図示した
6班=AED、公衆電話、帰宅支援ステーションなど、危機的状況の中で最後に頼れるもの、を選択的に図示した
7班=ライフラインの中でも水や食料など命の維持にかかわるものを確保するための情報を、麹町のみならず千代田区全体まで図示した
8班=避難先としてホテルという選択肢を提示し、さらに群集事故などの危険も想定、安全な避難に繋がる情報を図示した
9班=麹町学園周辺を6地区に分け、分担して調査することで詳細な各地区の危険度、建物や道の状況等を図示した
10班=建物の築年数や新耐震基準を満たすもの、構造がしっかりしているものを調査し、地震の際、倒壊しにくい建物を図示した
11班=ニッポン放送の防災の取り組みの一つである「理容防災ネットワーク」に参加している千代田区の理容店を掲載することで、地震の際に大きな問題となる通信障害や被害状況把握のための情報を図示した
12班=麹町の坂と昔の地形(川だったところ)に着目し、一見安全に見える麹町に潜む地形面の隠れた危険度を図示した
いかがでしたでしょうか。こうした知見は、座学の授業ではなかなか得られないものだと思います。地図を作ろうとしたからこそ、紙の地図を知らなかった高校生がここまでの情報を手にして、さらにはそれを活用して地震を乗り切っていこうと心構えを新たにしているのです。
お手元に都市地図や地形図が1枚あれば、あとは地域をこまめに歩いたり、行政の発信している情報を調べたりすることで、こうした地図を作ることができます。ぜひ「Myハザードマップ」を作ってみていただき、防災、減災に繋げていただきたいと思います。
オリジナル防災地図作りの参考記事:改めて「地図」の価値を考えるコラム ~第三回 地図を防災にフル活用!新時代の避難術~