竹内(以下省略):
後半は、まず南海トラフ地震についてお話しします。
南海トラフとは、駿河湾から日向灘沖にかけての海底の凹地で、フィリピン海プレートがユーラシアプレートの下に沈み込んでいる場所のことです。このプレート境界を震源域として、100~150年間隔で繰り返し発生してきた大規模地震が「南海トラフ地震」です。前回起こったのは、1944年の昭和東南海地震と1946年の昭和南海地震で、発生から約80年経過した現在では、次の南海トラフ地震の発生が近づいているといわれます。
出典:気象庁ホームページ(https://www.data.jma.go.jp/eqev/data/nteq/assumption.html)
この地図は気象庁が発表したもので、最大クラスの南海トラフ地震が発生した場合の震度分布を示しています。静岡県から宮崎県にかけての一部地域では、震度7(赤色)が予測されており、広範囲にわたって震度6弱(黄色)から震度6強(オレンジ色)の強い揺れが想定されます。これらの地域には大規模な港湾都市がいくつも含まれており、経済活動にも甚大な被害が及ぶと考えられます。
また、南海トラフ地震では「長周期地震動」という周期が数秒以上のゆっくりとした長い揺れが発生すると予想されています。この地震動は、特に高層ビルなどの大型構造物が共振しやすく、従来の免震・耐震基準で建てられた建物が倒壊する危険性も懸念されます。
出典:気象庁ホームページ(https://www.data.jma.go.jp/eqev/data/nteq/assumption.html)
最大クラスの南海トラフ地震が発生した場合、関東地方から九州地方にかけての太平洋沿岸の広い範囲に、10mを超える大津波(赤色)の襲来が予測されます。さらに、津波が湾内に入る際には、その高さがさらに増すことがあるため、1m程度の津波であっても大きな被害をもたらす可能性があります。
また、大津波が襲来すると、港湾がしばらく使用できなくなるため、救援物資の輸送が困難になることも予想されます。このため、被災地への救援活動にも大きな影響が出ると考えられます。
ただし、これらの被害想定は、最大クラスの地震が発生した場合の一例であり、実際にこのような揺れや津波が起こるとは限りません。また、この規模の地震が発生する頻度は、1000年に1度もしくはそれ以下と予測されています。
次は首都直下地震についてです。
首都圏直下を震源とするマグニチュード(以下M)7クラスの大地震が、今後30年以内に約70%の確率で発生するといわれています。国が2013年に発表した被害想定によると、都心南部を震源とした場合、東京および千葉、埼玉、神奈川を中心に被害が及び、死者数は約2万3000人、全壊または焼失する建物は約61万棟に上るとの見込みです。また、電力供給能力は半減し、交通網の寸断により、多数の帰宅困難者が発生すると想定されています。
出典:内閣府ホームページ(https://www.bousai.go.jp/kohou/kouhoubousai/h25/74/special_01.html)
この地図は、内閣府の防災情報ページで公開されているもので、M7.3の都心直下地震が発生した際の震度分布を示しています。ただし、これはあくまで都心南部を震源とするケースを想定したものであり、震源地が異なれば震度分布も変わることを考慮する必要があります。
地図を見ると、東京23区の大部分が震度6強(オレンジ色)以上の強い揺れに見舞われると予測されています。震度6強は約3割の家屋が半壊または全壊になるといわれる強さです。
先日私は、昭文社の本社近くにある麴町学園で特別授業を行い、これまでに紹介した南海トラフ地震や首都直下地震に関する地図を生徒の皆さんにお見せしました。ここからは、生徒さんからいただいた感想や質問のなかからいくつかを紹介し、それに対する私なりの回答や見解を述べさせていただきます。
生徒A:学校から自宅までの距離が遠いです。もし電車が止まってしまったら、徒歩で帰宅することになりますか?
竹内:帰宅困難者対策として、必ず一時待機を行い、安全を確保したうえで、できれば1~2日経ってから行動を開始することが、現在の国の方針となっています。『帰宅支援マップ』も、東日本大震災以前はすぐに帰宅するための内容が中心でしたが、国の方針に従い、その内容を変更しています。
生徒B:大きな地震のときの配給はどれぐらいありますか?また、どれぐらいの人がもらえますか?
竹内:配給に関しては、首都直下地震の場合、被災者が瞬時に大量に発生するため、潤沢な配給が期待できるかというと厳しい状況が想定されます。なお、昭文社グループの本社ビルは千代田区からの呼びかけに応じる形で帰宅困難者支援のための地域協力会に参加しており、非常時の備蓄品の提供や、安全のために周囲の人々を受け入れる、といった取り組みに賛同しています。都内で地震に遭遇した際には、このように企業や店舗が頼りになる可能性があります。
生徒C:フェイクニュースに惑わされないようにしたいと思いました。
竹内:地震発生後には、ライオンが逃げ出した、川が決壊している、津波が迫っている、といったフェイクニュースがSNS上に出回ることが多々あります。そのため、SNSを鵜呑みにして判断したり、ましてやその情報をリポストしたりすることは絶対に避けてください。ラジオや公的機関が配信している正確な情報を確認し、フェイクニュースに惑わされないよう注意しましょう。
生徒D:ラジオ局と協力して、情報を発信している理髪店があることに驚きました。
竹内:ニッポン放送の取り組みとして、千代田区周辺の理髪店と契約し、地震発生時には理髪店がラジオステーションとして機能し、大きな音でラジオ放送を流すことが約束されています。先ほどお話しした防災地図づくりの授業では、ある班の生徒たちがその理髪店4か所の拡大地図を作成してくれました。しかし残念ながら、この取り組みはまだ十分に世間に伝わっていない状況です。
竹内:ここからは参加者の皆さんに、ご自身の考えや感じたこと、こういう対策が有効ではないかといったご意見を、ぜひお聞かせいただければと思います。
参加者A:インバウンドで日本に来た人たちも被災する可能性があるため、街なかで避難場所がわかるように地図を設置するのがよいのではないでしょうか。
竹内:確かに、最近は海外からの方が多いことを思うと、どうやって伝えるのかが重要ですね。昭文社でも多言語版の地震防災マップを企画すべきかもしれません。
参加者B:地震の際、電話は繋がらなくなることが多いですが、データ通信は問題が少なく、SNSなどで連絡を取るのがよいと聞きました。
竹内:そうですね。電話は必要な回線を確保するため被災地への架電、被災地同士の架電が制限されますが、被災地から遠方の地域には繋がる場合が多いようです。自分が被災した場合は、誰かキーとなる遠方の人に連絡を取り、その人に情報を共有してもらうのがいいかもしれませんね。
参加者C:家族でざっくりと避難経路を決めていますが、それ以外はあまり具体的には考えていません。
竹内:定期的に対策を見直すのがよいと思います。例えば、サブスク形式の非常食のサービスを利用するのもひとつの方法です。また、蓄電池があると、災害時の電力確保に役立つでしょう。
(ここで防災に詳しい参加者の方からアドバイス)簡易トイレが大変重要です。ぜひ簡易トイレを携帯してください。
参加者D:私は役所に勤務していますが、正直なところ、自力で避難などの対応ができる方には、ご自身で対応していただきたいと思っています。なぜなら、震災時は役所の人手だけでは対応に限界があり、どうしてもすべてに手が回らない状況になるからです。自力で対応できる方は、できれば支援が必要な方に手を貸していただければと思います。
竹内:救助や支援活動に従事する方々もまた被災者であることが多いです。私たちも、自分にできることをしっかりやって、共に助け合っていきたいですね。
(ほかにも多くのご意見、ご感想を頂戴しました。スペースの関係により一部抜粋しての掲載となります)
竹内:ということで、今日は地震と地図をテーマにお付き合いいただき、ありがとうございました。
今後もさまざまなテーマでイベントを開催してまいりますので、ぜひご参加ください。
広報 竹内コメント:今回ご参加いただいた12名の皆さんはそれぞれ地震について関心が高く、知識もお持ちで、とても内容の濃い、有意義な時間を過ごすことができました。私自身とても勉強になりました。テーマが重たいだけに、楽しんでいただけたかな?と思う部分も若干ありました。が最後にじゃんけん大会で地図やガイドを選んでいただき、皆さん笑顔で終われたのでよかったと思います。改めてご参加、厚く御礼申し上げます。
アドバイスいただいた簡易トイレ、早速買って持ち歩いています。首都圏で大きな地震に遭遇したら、数日は帰宅できないことを想定し、その間にどんなものが必要になるかをシミュレーションして、普段から持ち歩いてみてほしいと思います。もちろん「帰宅支援マップ」もお忘れなく。
地震だけでなく水害も多く、どこにいてもいつどんな災害にあうかわからない時代です。常に備えを怠らず、正確な情報を集め、いざというときに落ち着いて行動できることが大事です。皆さんもどうか定期的にそうした備えについて、考えてみていただきたいと思います。
昭文社グループでは地震、防災に関するさまざまな取り組み、情報発信を行っております。
この機会にこちらもぜひご一読ください。
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