MAPPLE×新しいスタイル

2024年12月13日、東京都世田谷区にある「地理系ブックカフェ 空想地図」にて、地図・ガイドブック編集のプロならではのニッチな旅の醍醐味をご紹介するイベントが開催されました。このイベントは、毎回異なるテーマを設定し、ゲストがそのテーマに沿った話をする形式で行われ、今後も定期的に開催される予定です。

 

今回は「“オレ流”オリジナルガイドのススメ」と題し、昭文社内から地図とガイドブックのエキスパートをゲスト講師に招きました。独自の趣味を生かして旅をセルフプロデュースしているゲスト講師が、「温泉」「ローカルグルメ」「巨木探訪」などをテーマに旅の醍醐味について存分に語ります。

 

 


 

 

|| ゲスト講師プロフィール

<ゲスト講師近影>

小川 正彦(おがわ まさひこ)

1997年の入社以来、編集畑一筋。自他ともに認める“趣味を仕事にした男”。
これまでの担当ジャンルは地図、国内ガイドブック、海外ガイドブック、受託商品全般。
好きな言葉は、もちろん「好奇心」。

 

|| 司会

竹内 渉(たけうち わたる)
昭文社ホールディングス広報担当。元地図編集部。

)) 地図とともに歩む仕事人生 ((

小川(以下省略)まずは自己紹介から。

私はこれまで昭文社で編集の仕事に携わってきました。現在は、企業や自治体から依頼を受けて地図などを制作する「特注開発商品」を手がけており、地図やガイドブックの編集に加え、データベースの整理などを担当しています。また、最近はインフルエンサーの方々とともに市町村を訪れ、その魅力を広く発信するプロジェクトにも参加しています。このように、地図や地域の魅力を生かし、人々の役に立つ情報を届ける仕事に日々やりがいを感じています。

 

)) 旅と地図が教えてくれたこと ((

次に私の略歴を紹介しますね。

学生時代の私は、旅を通じて地図への興味を深めました。高校時代には、夏休みに青春18きっぷを使って同級生と西日本一周の旅をしたほか、佐渡島を歩いて一周するなどの経験をしました。さらに、大学時代には軽のワンボックスカーを使って日本一周の旅に挑戦し、約3か月をかけて全国を回りました。

この日本一周の際には、当時昭文社から販売されていたB4サイズの大判道路地図帳『Mapple』(10万分の1の地図)を購入しました。この本は地方ごとに分冊されており、1冊2000円ほどで、当時の大学生には高価なものでした。また、旅の計画に便利な『道路時刻表』も約4000円と高価だったので、自分で地図に所要時間や道路情報などを書き込み、旅の計画を立てたことを覚えています。

これらの経験を通じて、地図を使いながら旅を楽しむことの魅力を知り、地図そのものへの興味もいっそう深まりました。

 

)) 昭文社での軌跡 ((

昭文社に入社後、私は大阪支社の地図編集部に配属され、編集者としてのキャリアをスタートしました。最初に担当した仕事は『都市地図』の原稿書きで、担当エリアは大分県と徳島県でした。これらの地域は住居表示がほとんど整備されていなかったため、大量の地番を書き続ける日々が続きました。

地図が好きで入った会社でしたが、連日の慣れない調査、作業に自分を見失いそうになります。入社3年目にはその迷いを見透かされたように旅行書編集部に異動。水を得た魚のごとくガイドブック編集に情熱を注ぐようになりました。同時に「やっぱり地図が好きだ」と再確認する機会にもなりました。7年目には、学生時代からのラーメン好きが高じて『関西激うまラーメン』という本を企画。取材のために年間1000杯以上のラーメンを食べ歩き、この企画に全力で取り組みました。この本は予想を上回るヒットとなりましたが、食べ過ぎたことで一時的にラーメンが好きでなくなるという苦い思い出もあります。

8年目には東京本社に転勤し、海外ガイド部門に配属されました。その後7年の経験を積み、現在は特注部門、いわば「何でもやる課」で多岐にわたる業務に携わっています。

 

)) 温泉好きが厳選! 極上の湯と共同浴場の魅力 ((

それでは、ここから本題に入ります。私自身が感じる旅の魅力を3つのテーマでご紹介します。最初のテーマは温泉です。

日本には温泉地が3500~5500か所ほどあり、温泉施設の数は2万を超えるともいわれています。私自身、これまでに約1000か所の温泉を訪れてきましたが、そのなかで1か所だけおすすめを挙げるとするなら、岩手県八幡平市にある「藤七(とうしち)温泉 彩雲荘」です。

この温泉地は標高約1400mに位置する一軒宿の秘湯で、自然に囲まれた露天風呂では、湯船の下から豊富なお湯が絶え間なく湧き出ています。特に印象的なのはその泡付きのよさです。湯船のなかで「ボボボボボ」と音を立てながら湧き上がる気泡が体にまとわりつき、「プルルルン、ポロロロン」というリズミカルな音を奏でます。この泡の心地よさに加え、八幡平の雄大な景色を眺めながらの入浴は格別で、まさに極上の温泉といえるでしょう。

<藤七温泉彩雲荘と八幡平の絶景。遠方に岩手山が見える>

 

なお、私がおすすめする温泉の多くは共同浴場です。なぜなら、その温泉地で最もお湯の質がよいため、みんなで使う共同浴場として利用されているからです。したがって、お湯そのものを純粋に楽しむには最適な場所といえます。

ただし、共同浴場では地元の方々と一緒に入浴するため、「お邪魔させていただく」という謙虚な姿勢を持つことが大切です。また、地元の方々と自然にコミュニケーションを取れる機会もあり、その地域ならではの温泉文化を肌で感じられるのも大きな魅力です。

 

)) 旅先で出会った日本各地の絶品グルメ ((

次は全国の味めぐりについてお話します。

私は旅先で出会ったグルメを可能な限り写真に収めており、どれも思い出深い体験です。そのなかでも特に印象に残っている日本各地の絶品グルメをいくつかご紹介します。

学生時代を京都で過ごしたことから、「京都の庶民の味」の代表格であるラーメンの話は外せません。私のイチオシはラーメン激戦区と呼ばれる高野にある「天天有」ですね。これは何杯食べたか分からないくらい…自分の体の半分はこのラーメンで出来ていそうです。一般に京都は「おばんざい」「湯豆腐」なんて、あっさりしたイメージがありますが、実は結構こってりしたものも多く、「焼肉」「天下一品」「べた焼き(お好み焼き)」なんかは京都を代表する「こってり味」です。いつも薄味じゃ生きていけない…何にでも「オモテとウラ」がある代表例と言えそうです。

<京都市の天天有のラーメン>

次に、静岡県富士市で食べたB級グルメ「つけナポリタン」もユニークでした。トマトベースのスープにモチモチの太麺が絡み、具材にはチーズや鶏肉、チンゲン菜などが入っています。スープが飛び跳ねやすいため、お店では紙エプロンが渡されます。レモンの爽やかな酸味がアクセントになっていて、忘れられない味です。

<静岡県富士市のつけナポリタン>

 

最後に、食いしん坊にとって大事な問題なのですが、「人生最後の食事は何が食べたいですか?」です。私は愛媛県今治市の「焼豚玉子飯」か愛知県安城市の「北京飯」かで大いに悩み中なのですが、どちらもこってり系であり、人生この先、健康でいて、このようなものを食せるぐらい健啖でありたい願っています。

「あなたの最後の晩餐は何ですか?」

<愛媛県今治市の焼豚玉子飯>

<愛知県安城市の北京飯>

 

どのグルメも、その土地ならではの文化や風土を感じられるものばかりで、旅の醍醐味を存分に味わうことができました。もちろんあわせるお酒も奥が深く、いずれお話ししたいと思います。

後半は、今日のメインテーマでもある巨木の魅力について語ります。

後編へ続く⇒~里山で巨木に出会う楽しみを知る