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2015年、今年も新たな世界遺産が誕生!日本からは「明治日本の産業革命遺産 製鉄・鉄鋼、造船、石炭産業」として、8県11市、23箇所にわたる地域の建造物や遺跡が登録されました。そんな明治日本の産業革命遺産 製鉄・鉄鋼、造船、石炭産業」を「地図」という角度から眺めてみると、実はいろいろな発見ができちゃうんです。そもそも「産業遺産」ってなに?という方も、必見です!

 

2015 年7 月、第39 回世界遺産委員会において、合計で24 件の新たな世界遺産が誕生しました!今回、日本からは「明治日本の産業革命遺産 製鉄・鉄鋼、造船、石炭産業」として、8 県11 市、23 箇所にわたる地域の建造物や遺跡が登録されました。
 
えっ、世界遺産ってどこか1箇所じゃないの?そもそも「産業遺産」ってなに?という方も多いのではないでしょうか。
 
ある産業文化に関連する、工場や製造所などの生産施設、輸送施設や生産物を消費する場所などのなかでも、特に歴史的、技術的、社会的、建築学的、または科学的価値のあるものを「産業遺産」といいます。「明治日本の産業革命遺産 製鉄・鉄鋼、造船、石炭産業」では、そんな「産業遺産」の中で「明治日本の産業革命」にまつわるたくさんの「産業遺産」がまとめて一つの世界遺産として登録されたため、それを包括する言葉として、「産業革命遺産」という名前が使われています。
ちなみに、今回世界遺産登録されたノルウェーの「リューカン・ノトデンの産業遺産」や2008 年に拡大登録された「インドの山岳鉄道群」なども複数の地域にまたがって登録されている「産業遺産」。街全体や、路線や駅舎を含む鉄道全体など、世界遺産の形態は様々です。

改めて、今回登録された「明治日本の産業革命遺産 製鉄・鉄鋼、造船、石炭産業」を地図で眺めてみましょう!
明治時代は日本が近代化を推進した時代であり、世界史的に見れば、日本の産業革命時代と言えます。日本古来の方法で行われていた石炭の採掘や製鉄は西洋の技術を取り入れながら効率や生産性を向上させ、造船業へと展開していきました。造船分野での日本の躍進は著しく、初めての蒸気船建造からわずか50 年余りで、当時では世界屈指ともいわれる造船大国へと成長していったのです。
 

今回登録された産業遺産一覧

列強の植民地化を免れるため、外国からの資本輸入に頼ることなくほとんど自力で進められたこの産業革命は、くしくも西洋の科学技術と伝統的な日本の文化が混じり合うことで加速し、産業の飛躍的な発展を遂げました。これは、世界の技術史においても極めて希な事例です。

さて、今回登録された23 箇所の産業遺産のうち、なんと1/3にあたる8か所は長崎県内にあります。なぜ長崎に、これらの産業遺産は集中しているのでしょうか?
その理由は、実は江戸初期まで遡ります。当時の南蛮貿易においてポルトガルが寄港地に長崎を選んだのは、大陸航路と南蛮航路の双方に適していたからという説があります。対馬から来る大陸貿易では域から平戸島を回って長崎にいたる沿岸航路、南蛮航路でも五島列島までたどり着けば、後は沿岸航路として、その頃から長崎は昔から世界へと開かれた日本の窓だったのです。 平地が狭小な長崎では、段々畑の土地を転用し外国人居留地を建設していました。多くの外国人が長崎に暮らし、西洋から最先端の蒸気機関を日本へと持ち込みましたが、その最初の導入試験もやはり、長崎で行われました。蒸気機関を使うことで長崎を中心に石炭採掘と造船業は急速に成長し、明治日本は近代化へと歩みだしたのです。 産業と地理は切っても切れない関係。
それがよくわかる幾つかの例を見てみましょう。
 

小菅修船場は長崎港の西岸に位置し、小規模な湾入地形を利用して造られた船舶修理施設(ドック)です。明治初期の造船現場を知る貴重な遺跡として知られており、ぐっと入り組んだ入江に並んだ船を引き上げるための滑り台が、まるでそろばんのように見えたことから地元の人々には「そろばんドック」とも呼ばれています。
船架の創設は1867年。五代才助を中心に貿易商社大和交易の小松清廉とイギリス商人グラバーが出資者となって造られました。イギリスから仕入れた最新の曳揚機械やボイラーといった機器、オランダ人から製法を習得した蒟蒻煉瓦など、西洋の技術がふんだんに取り入れられたこの修船場は、1869年に官営となったのち、1887年に三菱に売却されて民営となっています。現在も、曳揚小屋、曳揚機械、軌道、石垣などが残る、日本最初の洋式近代ドックからは、遠くイギリスとつながる海を眺めることができます。

 

【行ってみるならここも注目!】旧グラバー住宅

[旧グラバー住宅は、建築当時のそのままの場所に残されている]

 

小菅修船場にも関わりの深いグラバー氏は、他にも最先端の蒸気機関を使った石炭採掘を高島炭鉱などに導入し、長崎に造船技術を伝えた人物です。そんなグラバーが住んでいた日本最古の木造洋風建築が小菅修船場跡のほど近くに残されており、主屋・附属屋は国の重要文化財に指定されています。(画像提供:一般社団法人長崎県観光連盟)
・グラバー園~小菅修船場跡
「グラバー園入口(南部向け)」バス停より、3040系統のバスに乗車し、「小菅町(南部向け・戸町側)」バス停で下車。【運賃150円】
 
 
 

1890 年代に入ると、鉄道敷設や造船など国営事業の影響から、鉄鋼需要が急増。鋼を生産するため官営近代製鉄所の設立の話が持 ち上がります。福岡・八幡村がその地に選ばれたのは、水や労働力、地震が少ないこと、当時日本最大の石炭産出量を持つ筑豊炭 田に隣接していたことなどが理由でしたが、石炭の確保及び輸送の利便性に加え、国防上の問題もその選定に大きく関わっていたといわれます。
官営八幡製鐵所は銑鋼一貫の近代製鉄所として地域経済や関連産業の発展に大きく貢献し、八幡村の人口は、20 年で約50 倍にまで増加。海辺の寒村は九州きっての産業都市へと発展を遂げました。 現存している八幡製鐵所創業2 年前の1899 年に竣工した初代本事務所は、中央にドームを持つ左右対称の意匠で,和瓦葺、洋小 屋組(クイーンポストトラス)のイギリス式のレンガ積のモダンな外観で、かつての興隆をしのばせます。
(この建物は製鐵所の敷地内にあることや老朽化により立ち入りが制限されており、公開はしていません。)
また、ほど近くに位置する東田第一高炉跡は創業時の姿をとどめていないため世界遺産の構成資産からは外れていますが、「製鉄の街」のシンボルとして市民に親しまれています。
 

 

【行ってみるならここも注目!】眺望スペース

[かつての官営八幡製鐵所の様子と見比べてみよう]

 

官営八幡製鐵所の関連施設は、製鐵所の構内に立地していることから現在ほとんど一般公開はされていませんが、平成27 年4 月17 日に、構成資産のひとつである旧本事務所(1899 年竣工)を眺望できるスペースがオープンしました。世紀を超えた産業遺産風景を見ることができます。(眺望スペース内では、写真・映像の撮影はできません)スペースワールド駅前から徒歩10 分。(画像提供:北九州市総務企画局世界遺産登録推進室
 
 

大板山たたら製鉄遺跡は、江戸時代中期から幕末にかけて断続的に操業していた製鉄所跡です。大井川の支流である山の口川の上流部に位置しており、砂鉄を原料に、木炭を燃焼させて鉄を生産する日本古来の方法「たたら吹き」で製鉄を行っていた場所です。山口県内最大級の規模を誇っており、長州藩(萩藩)に展開した島根県・石見系のたたら遺跡の典型的事例としても貴重な遺跡です。
原料の砂鉄は島根県から北前船を利用して奈古港から持ち込まれ、生産された鉄は恵美須ヶ鼻造船所へ。ロシア式・オランダ式といった西洋式の造船に用いられました。日本独自の製鉄技術が当時最新の西洋式の造船に役立てられた、という、ユニークな事例としても知られています。
1984年に完成した山の口ダムにより遺跡域の南半分はダム湖底に水没してしまいましたが、北半分にあった高殿などの製鉄遺跡主要部分はそのまま残され、山口県指定史跡となっています。 萩市街からは車で約40分(大型車通行不可、駐車場5台程度)
 
 

 

【行ってみるならここも注目!】萩反射炉

[世界遺産登録された萩反射炉。国指定史跡でもある]

 

1856 年に築造された萩反射炉。安山岩積み(上方一部レンガ積み)の金属溶鉱炉は高さ約10.5m、萩藩の軍事力強化の一環として導入が試みられたといわれています。オランダの技術を取り入れ日本式にアレンジを加えた反射炉は日本の近代化の始まりを象徴するもの。現存する反射炉は静岡県韮山と萩の2 ヶ所だけという産業技術史上たいへん貴重な遺跡です。(画像提供:萩市観光協会)
 

ここで紹介した以外にも、日本にはたくさんの「産業遺産」が存在しています。 産業遺産は、そもそも産業施設自体が「美的な景観」を目的として作られたものではありません。また、国際憲章により「産業遺産を美的に整備してはならない」とされています。つまり、自然遺産や景観といった種類の世界遺産のように、きれいに、きらびやかに整備してしまうと、その価値は大きく損なわれるとされているのです。
しかし、産業遺産の価値はその歴史にあります。ただ尋ねるだけでなく、周辺の地図や地形の特徴、その場所の来歴を調べてから訪れてみると、全く違ったものにみえてくるはずです。また、歴史や地理、産業などの様々な観点から眺めてみることで、意外な発見もあるかもしれません。この夏のおでかけの予定に、ぜひ加えてみてくださいね。

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