ソリューション
高知県では2年ほど前に「女子旅プロジェクト」が立ち上がりました。高知というと、坂本龍馬とカツオが代名詞。観光客の大半は中高年の男性客と言われていましたが、観光活性化のためにも、若い年齢層の方の訪問をいかに増加させるかが長年の課題でもありました。高知県観光特使の一人でもある、ハローキティの3代目デザイナー山口裕子さんから「これからは、龍馬目当ての男性ばかりじゃなくて、もっと女性客を増やさなくちゃ」と発破をかけられ、このプロジェクトがスタートしたのです。
メンバーは私と地場(高知県観光コンベンション協会 プロモーション部主査)ほか、民間の方も交えた8人。みんな女性です。東京勤務の私は出版社をはじめ、女性向け媒体へのPR活動を担当。現地高知のメンバーが2チームに別れ、それぞれに女子旅のモデルプランを作成し、そのプランをベースに各メディアにセールスをかけ、誘客につなげるのが主なプロジェクトの概要です。
モデルプランをリリースしたものの、検証が不十分では、旅行会社やメディアへの売り込みも説得力が欠けてしまいます。「女子旅=都会の女性に訪れてもらう」と想定し作成した旅行プランであったにもかかわらず、エンドユーザーの本音を聞く機会に恵まれないのが問題点でもありました。
そこで、昭文社に相談したところ提案を受けたのが、ソリューションサービス『ことりっぷモニター』です。私たちプロジェクトメンバーが想定していた女子旅のターゲットは、まさにことりーな(ことりっぷのファン)。個人的にもことりっぷは大好きな旅行ガイドブックでしたので、モニターをイメージしやすかったことも今回のソリューションサービスを利用する決め手になりました。
ことりっぷのメルマガ会員からモニターを募り、昭文社でモニターを選出。担当の橋本さん(弊社メディアプロモーション本部 メディアプロモーション部 開発営業1課課長)にはチケットや宿泊先の予約から、ツアー同行に、モニターの方のアテンドもお願いしました。ツアー行程では県内をあちこち回遊してほしい反面、公共交通を使用した移動アクセスが難しいことが懸念材料に。タクシーを1日チャーターやマイクロバスでの移動など案が出ましたが、結局、レンタカーを自分たちで運転して旅してもらうことにしました。モニターとしての旅行とはいえ、いつもの友達同士の旅に近いシチュエーションにしたのも、橋本さんのアイデアです。
※今回の『ことりっぷモニター』はことりっぷWeb(https://co-trip.jp/)の会員である女性(ガイドブックことりっぷのファン=ことりーな)に対し、旅行プランを提示し募集したツアー企画です。ツアーに限らず、様々な女子向けの企画について募集し、質の高いエンドユーザーの“生の声”を引き出せる昭文社独自のソリューションサービスメニューです。
旅に対して意欲的かつ嗅覚の鋭いモニターを集められたのは、女子旅提唱の先駆者とも言えることりっぷブランドの力。2回にわけ、計4名の方にご協力いただきましたが、本当に彼女たち、ことりっぷモニターの“旅力”には驚きました。伺ったところ、みなさんパッケージツアーの利用はほとんどなく、国内でも海外でも自分でチケットやホテルの手配を行い、訪問先も自分たちで情報収集し、カスタマイズした旅行を楽しんでいるそうです。行きたい場所や泊まりたいホテルには妥協がなく、多少アクセスが悪くても厭わない、こだわりをみなさんお持ちでした。本当の自然に触れたいからと西表島まで旅されたり、美術館目的で金沢まで行かれたりと、旅に対しての目的意識が高いんですね。そんな旅慣れた彼女たちに高知はどのように映るのか、楽しみでもあり、緊張もしました。
モデルツアーは女子旅ということもあり、イタリアンレストランやカフェにオーベルジュと、いままでの高知のイメージを打ち砕く渾身のプラン内容。みなさん喜んでくださり、プロジェクトメンバーにも自信もありました。しかし、旅の途中でモニターの1人から「カツオはいつ食べられますか?」と聞かれ、ハッとしました。女子旅を強く意識しすぎて、本来の高知の良さから遠ざかっていたんですね。また、定番の日曜市やオーガニックマーケットに行きたいとリクエストがあり、急遽行程に盛り込むことに。採れたての野菜や果物、農家による手作りのお菓子や調味料を予想していた以上に気に入ってくださり、道の駅やマーケットに寄るたび、柚子味噌やポン酢、手作りのラー油などたくさん購入されていました。カツオや市場は高知の人間にとって日常であるために、正直、女性を誘致するための観光資源になるとは考えていませんでしたが、高知の食文化は誘客につながると手応えを実感。これもモニターツアーで検証したからこそ、知り得た情報です。ことりっぷモニターの言葉や興味の対象は、どれも私たちに改めて高知の良さを気づかせてくれただけでなく、新たな価値提案まで引き出してくれました。
▲室戸岬や馬路村を訪問したモニターのTさんとAさん。メーカー勤務のTさんはアートを巡る旅が好きで、なかでも北海道のモエレ沼公園や金沢の21世紀美術館がお気に入り。大学の同級生だったAさんは国内旅行では島めぐりに夢中で、最近は西表島や直島を訪問されたそう。
モニターのご意見や率直な感想を反映させたレポートを県の担当部門へ回し、共有したことで、大きな一歩を踏み出すことが出来ました。今年度も引き続き観光政策の一つとして「女子旅」に力を入れることが決定したのです。旅力のあることりっぷモニターの言葉は、やはり説得力が違います。それまでは、高知に来るのはどうせ男性が多いだろうという雰囲気があったのですが、女性誘客も十分見込めることがわかり、新たなプロモーションに向けて意識が高まりました。観光業界と県全体が一丸となって、誘客増加のためにまさに動き出そうとしているところです。
今回は女子旅がテーマでしたが、旅の定番としての『まっぷる』、ファミリー層なら『家族でおでかけ』といった具合に、昭文社にはさまざまブランドがあります。各ガイドブックにレベルの高い読者とファンがいるからこそ、モニター参加型のソリューションサービスが成立するのでしょう。昭文社はエンドユーザーに一番近い旅のプロ。今後は誘致活動などについても、お知恵を拝借できたらと期待しています。