MAPPLE×新しいスタイル

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • (function(d) {var s = d.createElement('script'); s.type = 'text/javascript'; s.async = true;s.src = '//static.mixi.jp/js/plugins.js#lang=ja';d.getElementsByTagName('head')[0].appendChild(s);})(document);

2015年8月に東京都・品川区にオープンしたKAIDO books&coffee。実はこの店、「旅と出会えるブックカフェ」として、いま注目を集めています。一風変わったブックカフェが、なぜ品川にできたのか?その秘密は江戸時代にさかのぼります。旅にまつわる約1万冊の本とコーヒーを提供し、さらに全国の地域の魅力の発信も行っているというこの店のオーナー佐藤さんに、品川と本、旅との出会いについてお伺いしました。

 

◉プロフィール
佐藤 亮太(さとう りょうた)
品川区八潮に生まれ。高校卒業後、浅草の人力車会社に就職。その後、広告会社の企画営業として500件を越える飲食店の支援を行う。2010年に株式会社しながわ街づくり計画を創業。品川宿地区を中心に、商業、観光、防災といった方面からのまちづくりを行っている。

 

JR品川駅から徒歩15分、京急線新馬場駅から徒歩5分。「品川宿」と書かれた街灯が連なる下町情緒ある商店街の一角に、道を表す部首「しんにょう」の上に本とコーヒーカップを組み合わせた不思議な看板のお店を見つけることができます。
入り口は全面ガラス張りで明るく、入ってすぐ左のスペースにはギャラリーのように写真や小物が展示されています。1階奥には全国各地の焙煎所がローストした豆を使ったコーヒーをサーブしてくれるカウンター。店内はコーヒーのいい匂いで包まれています。
一見普通のカフェのようですが、階段を上がると…2階の壁一面を覆う棚には本がぎっしり。紀行文、地図、写真集、雑誌…そのほとんどは街道と名の付く本や、街道の記述のある本、旅にまつわる本で、その数は約1万冊。これらの本は、コーヒーを飲みながら、自由に読んだり、購入したりすることができます。

このお店こそ、日本でもおそらく唯一の「旅と街道専門」のブックカフェ、KAIDO books&coffeeです。

お客さんは老若男女、ご近所さんから旅行者、外国人観光客などさまざまです。雑誌をめくる若いお客さんに、スタッフが「その場所についてなら、こんな本もありますよ」と声をかけたり、年配のお客さん達が本をきっかけに、昔旅行した場所の思い出話に花を咲かせたり…そんな光景が見られるこのお店は、「旅と出会えるブックカフェ」として、今、注目を集めはじめています。
「なぜ品川に、旅の本ばかりのブックカフェが?」そんな疑問を究明すべく、この店を立ち上げた 株式会社しながわ街づくり計画 代表の佐藤亮太さんにお話を伺いました。

-そもそも、このお店を品川で立ち上げるに至ったきっかけはなんだったのでしょうか?
品川は今でこそビジネス街としての姿で知られていますが、江戸時代には「品川宿」といって、東海道五十三次第一の宿場町、つまり旅の拠点として、日本各地からの人、もの、情報が行き交う街だったんです。
私は品川出身なんですが、地元の人間でもそんな地域の背景を知らない人は多いんですよね。高校を卒業してから、人力車の俥夫をやったり、広告業や飲食業を経験したりしていましたが、「将来は自分の街に関わる仕事、品川のPRがしたい」と思っていたんです。その方法の一つがこのお店でした。
旅に出かける人、帰ってくる人がひととき安らぎ交流し合っていたであろうかつての「品川宿」の姿を現代風にアレンジした店を作ろうと思ったんです。そして、ただゆっくりすごすだけでなく、全国への旅の拠点となるような情報が集まる場所にしたかった。それには「ブックカフェ」がぴったりだと考えたんです。

 

 

-1万冊の本の秘密は?
この店の本の大部分は、「街道文庫(※)」という書店からお借りしています。「街道文庫」の蔵書は、オーナーの田中義巳さんが30年にわたって「街道」を歩きながら、各地の書店や歴史資料館に立ち寄り買い集めものなんです。4万冊以上の蔵書のほとんどが街道と名の付く本や、街道の記述のある本というすごいこだわりなんですよ。
※街道の専門古書店「街道文庫 街道歩き相談承り処」(品川区北品川2、TEL 03-5462-0267)

-いつも同じ本があるの?
KAIDOでは、日本のいろいろな地域を紹介する企画展を随時行っています。それに合わせて、本も随時変更しながら展示していますよ。紹介する地域に関連するものや、スタッフが「ぜひ読んでいただきたい!」と思ったものなどを並べるようにしています。

 -自由に読んでいいの?
もちろんご自由にお読みいただけます。古書がメインですが、新しい本や雑誌もありますし、販売もしていますから、気に入ったものがあればぜひスタッフにお声がけくださいね!

 

-佐藤さんは、もともと旅行がお好きだったんですか?
そうですね、単純に「旅」することは大好きでした。地図で大体の目的地だけを決めて自由に放浪し、出会った土地の人と話をする…というようなスタイルの旅をよくしていました。
あるとき、以前訪ねたことのある、とある地域の歴史や背景を知る機会があったんですが、それを知ったことでその地域での記憶、印象が私の中で全く違ったものになったんです。こんな歴史背景だから、あの建物があったんだ、とか、この産業が栄えたんだ、とか、いろいろなことに合点が行くような気持ち良さがあって。その経験は私にとって結構衝撃的でしたね。と同時に、これまですごくもったいないことをしていたな、と感じました。それからは、どこかに旅行するときには、その地域のことはできるだけ調べてから訪ねるようにしています。あとは、ただ調べるだけではなくて、調べた知識から自分なりの仮説を立てるようにしていますね。これが楽しいんですよ!

例えば、私が長野県飯田市という場所を訪ねたときの話です。飯田市は日本一の焼肉の街で、ラム肉をよく食べる街(※)なんですが、ふと、なぜだろう?と思って。
そのとき私がちょうど読んでいた「望郷の鐘 中国残留孤児の父(山本慈昭著)」という本に、満州開拓団として飯田市の人たちが大陸に渡り、そして帰ってきたという記述があったんです。そこで、その人たちが大陸のラム肉文化を持ち帰ってきたのかも?という仮説を立てるんです。
実際に飯田市を訪ねた時に、地元のおじいさんたちにそんな話をしてみると「そういえばラム肉は第2次世界大戦の後くらいから食べ始めたかも…」なんて言葉が出てきて、やっぱりそうかもしれない!なんて思ったりするわけです(笑)。学術的に実証するわけではないんですが、そんな仮説を立ててから行くと、地元の人たちとの会話のきっかけにもなりますし、土地の歴史を自分なりに紐解く感じで、それが面白いんですよね。

※長野県飯田市は焼き肉店が多い街ランキング 第1位、ラム肉消費量は北海道に続き第2位。

-本にこだわられているのには、何か理由があるのでしょうか?
単純に、その土地の背景をより深く知ってほしいと思ったときに、本がいいなと思ったんです。雑誌や写真で見る印象からもう一歩先に進むというか。
写真で見たことのある場所でも、実際の景色を目の当たりにすると想像以上に圧倒されることが多く、むしろ写真とはまったく違う印象を受けることはよくあると思います。逆に、文字から受ける感覚の方が実際の印象に近いかもしれないなと感じるんです。文字の方がその場の「空気感」が伝わるのかもしれませんし、自分なりの想像や解釈をする余地が残されているからかもしれません。
どんな本でも、1冊の本がこの店のこの本棚に届くまでの間には、たくさんの人が関わっています。本をきっかけにその場所に旅行してもらったり、昔行った場所に関する本を改めて読んでもらったりすると、その本に関わった人たちの思いが本を通してバトンのようにつながっていっているようだなと感じますね。

-お店をやっていて嬉しいと感じられるのはどんなときですか?
この店で本を読んでみて、その土地に行ってみたいと思ってもらえれば嬉しいですし、実際に「行ってきたよ!」なんて言葉をいただくと、もう100%仕事した!って感じです(笑)この店の儲けとかそんな話ではなくて、この店がここにある役割を果たしたなと感じますね。
人と場所をつなぐためのやり方はいろいろですが、ただ本を並べるだけ、ただコーヒーを出すだけ、ただ展示をするだけ、ではやはり思いは伝わりにくいのだと感じます。本だけでなく実際の名産品や、写真で興味を引く、僕自身やスタッフたちがお客さんといろんな旅の話をする、そういったことが大切なんだろうな、と思っています。
滋賀県長浜市から来られたお客様との雑談がきっかけで長浜市の企画展が実現したり、愛媛の地域おこし協力隊の方々と一緒に、東京に暮らす「えひめな方々」との交流イベントをしたり…今後は大学や企業、自治体などとコラボレーションした地場産業のワークショップなども企画しています。
カフェとして利用していただくだけでなく、いろいろなものをきっかけにコミュニケーションできる場所として、もっと多くの方々に利用していただけると嬉しいですね。

-今後、このお店で実現したいことはなんでしょうか。
私は、20代~30代の方を中心に、もっともっと日本のいろいろな地域に関心を持ってもらいたいと思います。
この店の本や企画展のための取材を通して日本全国の魅力を知るにつけ、本だけでなく、その土地でしかできないことをやっている「人」やその土地でしかつくれない「もの」を通してその魅力をもっとたくさんの人に伝えていきたいと思っています。色々な情報がインターネットですぐに手に入る時代ですが、だからこそ直接人と話すことで得られるものは大きいと思いますし、KAIDOがその交流の拠点としての役割を果たすことは、「品川宿」の役割に通じるものだとも思います。

-お店に訪れる方へ向けてメッセージをお願いします。
KAIDOには、さまざまな企画展、田中さんの蔵書、コーヒーなど、旅へのきっかけがたくさんあります。あなただけの偶然の出会いをきっかけに、土地を知り、旅に出てみませんか?きっと、忘れられない旅になると思いますよ。
 

コラム読者の皆さんへ、佐藤さんにおすすめの本をセレクトしていただきました!

世界の道―アメリカ・ヨーロッパ
社団法人 日本道路協会
佐藤さんより:世界各国の「道」の写真集。その土地によって少しずつ変わっていく街並や舗装、石畳の様子は、この道を歩いてみたい!と思わせてくれます。
あわせて読みたい!
グローバルマップル 世界&日本地図帳

星の巡礼
パウロ・コエーリョ
佐藤さんより:スペインの北部を東西に横切るサンチャゴ巡礼の道程を描いた本。読む前と読んだ後では同じ景色も見え方が変わる、という体験をしたい方へおすすめです。
あわせて読みたい!まっぷる スペイン

修験道修行入門
羽田 守快
佐藤さんより:山に神や仏を感じ、山自体を神聖なものとするという日本人の精神がどこから来るのかを垣間見ることができる本です。山歩きが好きな方には是非読んでほしいですね。
あわせて読みたい!山と高原地図シリーズ

日本ジーンズ物語
杉山 慎策
佐藤さんより:岡山県倉敷の小島がなぜジーンズの聖地と呼ばれるようになったのか。ジーンズという表層の下にその土地の風土や歴史が隠されていることに気づきます。
あわせて読みたい!まっぷる 岡山倉敷

品川遊里三代
秋谷 勝三
佐藤さんより:著者は明治40年生まれで品川遊廓貸座敷山幸楼の三代目だった方。明治から昭和にかけて、変わっていく街や人々の暮らしを垣間見ることができます。
あわせて読みたい!まっぷる 東京 下町散歩

 

 

KAIDO books&coffee 店舗情報
〒140-0001 東京都 品川区北品川2-3-7
tel:03-6404-6388
HP:http://kaido.tokyo/
営業時間
日:10:00-18:00 月:定休日 火〜土:10:00-22:00
 

コラム一覧を見る

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • (function(d) {var s = d.createElement('script'); s.type = 'text/javascript'; s.async = true;s.src = '//static.mixi.jp/js/plugins.js#lang=ja';d.getElementsByTagName('head')[0].appendChild(s);})(document);