MAPPLE×新しいスタイル

<地理系ブックカフェ 空想地図>


2025年8月8日、東京都世田谷区の「地理系ブックカフェ 空想地図」にて、地理に関するイベントが開催されました。今回は「ジオ・テイスティング」と題し、「地理とワイン」にまつわる興味深いニュースや取り組みが紹介されました。なお、ジオ・テイスティングは今後もテーマを見つけて継続的に開催していけたら、と考えております。

イベント前半では、フランスと日本の気候や風土、さらに代表的なワイン産地について、昭文社グループの社員が紹介しました。後半では、フランス・ブルゴーニュ地方のワイナリーが北海道に注目し、ワイン造りを始めるに至った経緯を、昭文社の広報担当が解説しました。

さらに参加者の皆さんには、ブルゴーニュ産と北海道産のワインを試飲し、気候や風土がもたらす味わいについて語り合っていただきました。

 

 

 

 

 


<ゲスト講師近影>

|| ゲスト講師プロフィール

山本 沙野香(やまもと さやか)

2024年、昭文社クリエイティブ入社。大学と大学院では地理学を専攻。今回のテーマである気候や土壌についても関心が高く、講師を務めることに。仕事の傍ら地理分野の知識吸収に力を入れている。

|| 司会

竹内 渉(たけうち わたる)

昭文社ホールディングス広報担当。元地図編集部、北斗市(旧上磯町)出身。父親が以前酒類の卸売り業に従事しており、函館は母親の故郷ということで、函館平野が赤ワインの産地として世界的に注目されていることに強い関心を持っている。

竹内(司会):

本日は新たな企画「ジオ・テイスティング」にお越しいただきまして誠にありがとうございます。函館周辺でピノ・ノワール種のワイン生産が始まり、世界的にも大変な注目を浴びていることについて、今日は実際にワインを味わいつつ、その背景や最新の情報をみなさんと共有することで楽しいひとときを過ごせたらと思っております。ではまず山本から、ワインの基礎知識と気候・土壌について、お話しいたします。

)) フランスワインの二大産地 ((

山本(以下省略):

本日体験していただくワインを、より楽しく、そしてより深く味わっていただくために、まずはフランスを代表するワイン産地であるボルドー地方ブルゴーニュ地方についてお話しいたします。

両産地には、品種や格付けの考え方に大きな違いがあります。ボルドーでは複数の品種をブレンドしてワインを造るのが一般的で、生産者であるシャトーごとに格付けが行われています。一方、ブルゴーニュでは赤はピノ・ノワール、白はシャルドネが主要品種で、単一品種のワインが基本です。そのため畑ごとの個性がワインに色濃く反映され、格付けも畑単位で行われます。なかでも「グラン・クリュ」と呼ばれる最上級の特級畑からは、ルイ・ジャドが手がけるシャンベルタンのように、高価で評価の高いワインが生み出されています。

 

)) 日本ワインの多様性 ((

次に、日本国内の主要なワイン産地である山梨函館を比較してみましょう。山梨は日照時間が長く降水量が少ないため、日本固有の白ワイン用品種「甲州」の栽培に適しています。

一方、函館は梅雨や台風の影響が少なく、冷涼な気候に恵まれており、ピノ・ノワールシャルドネなどの栽培に向いています。こうした環境で生まれる函館産ワインは、酸味の質やバランスのよさで高く評価されています。このように、日本においても気候や風土の違いが、ワインのスタイルに大きな影響を与えているのです。

)) ブドウ畑の1年 ((

ブドウの1年は、春に芽吹き、初夏に花が咲き、秋に収穫を迎えるというサイクルで進みます。ブルゴーニュも函館もこの流れはほぼ同じで、重要なのは開花から収穫までがおよそ100日という点です。

ところが近年は気候変動の影響により、ブルゴーニュでは春先の霜夏の干ばつなどの被害が相次ぎ、大きな課題に直面しています。こうしたなかで、より冷涼な土地の価値が改めて注目され、函館もそのひとつに数えられます。温暖化という地球規模の変化が、今まさに世界のワイン地図を塗り替えつつあるのです。

)) ブルゴーニュと函館における海流の影響 ((

それでは、ブルゴーニュと函館の気候について見ていきましょう。

フランス中東部に位置するブルゴーニュは、四季の変化がはっきりしており、日本と比べると乾燥しています。北緯47度前後に位置し、函館よりも北にありますが、北大西洋海流という暖流の影響で、冬でも比較的温暖な気候となっています。

一方、函館はおよそ北緯42度に位置しますが、寒流の親潮の影響を受けるため、ブルゴーニュに比べて冷涼な気候となります。また、秋が長く穏やかであることも大きな特徴です。こうした海流の違いは、両地域の気候を左右する重要な要因のひとつであり、ワインの個性にも深く影響しています。

)) ワインの個性を生む「テロワール」 ((

海流とともに、ワインの個性を語るうえで欠かせない要素が「テロワール」です。テロワールとは、ブドウが育つ環境全体を指す概念で、土壌や地形、気候、さらには生産者の人的要因などが含まれます。

ブルゴーニュの畑は、ジュラ紀由来の石灰岩と泥灰土によるアルカリ性の土壌が特徴で、ピノ・ノワールやシャルドネの栽培に適しています。わずか数メートルで土壌の性質が異なることもあり、複雑で多様性に富んだワインを生み出す要因となっています。

一方、函館を含む道南地方では、火山由来の肥沃で水はけのよい土壌に恵まれています。近年、国内外のワイン生産者がこの地域の土壌のポテンシャルに注目し、調査を進めています。函館のテロワールを探る挑戦は、今まさに始まったばかりです。

 

)) ブルゴーニュと函館のワインで現地を思い“旅”をしよう ((

ブルゴーニュと函館は、冷涼な気候のもとでブドウが育つという共通点をもちながら、それぞれ異なるテロワールが独自の個性を生み出しています。ワインは、その土地の地理や気候、土壌に加え、生産者の知恵や努力が複雑に絡み合って生まれる作品ともいえます。ブルゴーニュや函館の悠大な自然に思いを馳せながら、グラスを傾けてその味わいを楽しんでいただければ幸いです。

 

後編へ続く⇒お待ちかね試飲タイムと、函館での取り組みをご紹介