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  3. 「バリアフリー温泉で家族旅行」出版記念  温泉エッセイスト山崎まゆみさんインタビュー日本初の"バリアフリー温泉ガイド"に込めた想い

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「高齢の方や身体が不自由な方の多くは、温泉旅行に行きたいと思いつつ、介護者の負担や宿への不安から躊躇してしまいがちです。ご家族など介護する立場の方々も、疲労や心労が蓄積し、温泉でのリフレッシュが必要な方が多数おられるにもかかわらず、家族全員で旅行に行ける環境などない、と諦めてしまう現実があります。」そう語るのは、温泉エッセイストの山崎まゆみさん。世界31 か国1000 か所以上の温泉を巡った山崎さんが、そんな方々への思いを込めて書いたという「バリアフリー温泉で家族旅行」。今回はその背景や制作過程について語っていただきました。

プロフィール
山崎まゆみ(やまざきまゆみ)
温泉エッセイスト ノンフィクションライター 
VISIT JAPAN 大使
にいがた観光特使 越後長岡応援団
新潟県長岡市生まれ。世界31 か国1,000 か所以上の温泉を巡り、温泉での幸せな一期一会をテーマにTV、ラジオ、新聞、雑誌などのメディアでレポートしている。著作には『だから混浴はやめられない』『ラバウル温泉遊撃隊』(ともに新潮社)、『恋に効くパワースポット温泉』(文藝春秋)、『おひとり温泉の愉しみ』(光文社)、『白菊-shiragiku-』(小学館)、脳科学者の茂木健一郎氏との共著『お風呂と脳のいい話』(東京書籍)などがある。
東京五輪・パラリンピックに向け、日本の<バリアフリー温泉>の推進に力を注いでいる。日々の温泉情報はHP で更新中。

●山崎まゆみオフィシャルサイト

http://ingsnet.com/mayumi/

1997年秋からずっと温泉を紹介することを仕事にしてきて、心や体が弱っていたときに沢山の力を温泉からもらってきたなぁと、つくづく感じています。スタートは混浴温泉のレポートだったのですが、ある温泉で、93歳のおじいさんに「お湯に入れば老若男女みんな平等だ」というようなことをお話しいただいて、まさにそうだな、と思ったんです。心も体も、誰もが温まることのできる温泉の魅力を改めて感じたきっかけでした。

実は私には、重度の障害を持つ妹がいたんです。妹はとても明るく社交的な性格で、旅行も大好き。海外を中心に車椅子でアクティブに動きまわっていました。今でこそ日本のバリアフリーは世界に誇れる水準ですが、15〜20年ほど前は、まだまだバリアフリーの対策が行き渡っていませんでした。そういった背景もあってか、家族で一緒に海外旅行はあっても、国内、特に温泉に行こうという発想はありませんでした。 その後、妹は体調が悪化しなかなか旅行に出られなくなってしまって…、2012年に他界しました。私の仕事をテレビなどで見ては「いいなぁ、いろんな温泉に行けて」と言っていたのを覚えています。

妹が亡くなったしばらく後に、「足腰が弱った方も連れて行ける温泉」をテーマにしたお仕事で取材をした際、バリアフリールームというものがあることを初めて知ったんです。「妹を連れて温泉へ行くことができたんだ」と思うと、後悔しました。 同時に、1,000か所以上もの温泉に行っていた自分でさえ温泉宿のバリアフリー対応について知らなかったことに驚きました。そして、一般の方はもっと知らないんじゃないか、私と同じように諦めてしまっているんじゃないか、と思ったんです。

バリアフリー設備を導入していたり、バリアフリールームがあっても、「うちはバリアフリー温泉です」と公にしていないお宿は大変多いです。パンフレット等はもちろん、インターネットにもあまり情報を載せていないところが多いのですが、それには理由があるんです。 身体が不自由な方、介護が必要な方、バリアフリー環境をもとめられている方々の状況は、個々人によって本当に様々です。そして、はっきりと言ってしまえば、全ての方に完璧なバリアフリー環境など、実は不可能なんです。 温泉宿はあくまで宿泊施設ですから、例えば入浴介護など、きめ細やかな介護サービスの提供が完璧にできるわけではないんですね。そういった点でお客様との意思の疎通がなかなか難しく、お宿側も、お客様側も残念な思いをしてしまった、というケースもあると聞きました。

この話を伺って、私は「お宿と、お客様との橋渡しになるものや、基準が必要だ」と強く感じたのです。温泉宿の方々は、お客様に温泉を楽しんでもらうために、できる限りのことをしようと心を砕いてくださいます。ですから、お客様側も、自分たちやご家族にどういったサービスが必要なのかを事前にしっかり相談し、準備を整える必要があります。お互いがそうして話し合い、理解し合い、協力し合うことが大切なんです。

私が何度も取材に行かせていただき、懇意にしていただいていた湯ヶ島温泉の白壁荘さんというお宿があります。「足腰が弱った方も連れて行ける温泉」の取材問い合わせをした時に「うちにバリアフリールームがあるわよ」と教えていただき、詳しく取材をさせていただきました。
実は女将には義理のお父様を介護したご経験があったそうで、お父様が他界された後に、「義父のような人にこそ、温泉に入って欲しかった」という思いを抱かれたそうです。そこからお抱えの大工さんと、こちらも介護経験のある方だそうですが、お二人で色々工夫されて、バリアフリールームを作りあげられたそうなんですね。
その話を聞きながら「私も実は妹が…」というお話しをしたところ、「どうして言わなかったの?」と涙を流していただいきました。その時、私自身が最初から無理だと思ってしまっていたこと、遠慮して相談もしていなかったんだということに気付かされたんです。 長年、車椅子生活の妹と過ごしてきた家族である私ですら無意識に遠慮をしていたのですから、障害がある方ご自身はなおさら、遠慮や気後れがあるのではないでしょうか。
他にも、車椅子の方が泊まりに来られた際、設備などの問題から温泉に入ることができず残念な思いをさせてしまった、という後悔をきっかけにしてバリアフリールームの設置を決めたというお宿の声も聞きました。前もって相談していただいていたら、もっと楽しんでいただけるようにご用意ができたのに、とおっしゃっておられたお宿もたくさんあります。
そんな志あるお宿の思いと、遠慮や気後れから温泉を諦めしまっている方の思い。それをきちんと伝え合うためのお手伝いができるようなツールがあれば…。そう思って、この本をつくることを決意しました。

いざ本をつくろう、と思い立ったはいいものの、制作過程は本当に手探りでした。類書もなかったので、何をどう伝えれば良いのか、最初は見当もつかなかったんです。そこで、とにかくお宿の方々に取材をお願いし、お話を伺いに足を運び、お宿の方々の思いや実際の経験を聞かせていただくことから始めました。お話や実際のバリアフリールームを取材しているうちに次々とアイディアが生まれ、本の骨組みが決まっていきました。 また、地域のバリアフリーツアーセンター(※1)の方にもたくさん助けていただきました。特に、佐賀嬉野のセンターで実際に現場で働いてらっしゃる方々から「この情報は必要!」という項目をお伺いすることができたのは大きな進展のきっかけになりました。利用する方々が本当に必要としている情報は何か、ということをみんなで考えながら基準となる項目をまとめていき、それを元にお宿を取材しました。取材をしながらさらに項目を付け足したり、削ったりしながら仕上げていったのです。

お宿の方々には、忙しい中、詳細な情報提供にご協力いただくことができて、本当に助かりました。 こうした行程を経てできた本ですから、掲載されている場所以外のお宿へ問い合わせるときや、これからバリアフリーを取り入れていきたいとお考えのお宿の方々の参考にもしていただけるものになったのではないかと自負しています。 旅行の時の懸念点である、宿までのアプローチ方法や、全国のコーディネートセンター(※2)の情報も載せていますから、そこから情報を集めて、いろいろな可能性を見出していただけると嬉しいですね。

 
 
※1 バリアフリーツアーセンター:高齢者・障害者をふくむ全ての人たちに安全でより快適な旅を総合的にサポートする団体。
ここでお話いただいたのは佐賀嬉野バリアフリーツアーセンター  https://www.facebook.com/sagaureshino.bftc/
※2 コーディネートセンター:障害についての知識と支援ネットワークを持つコーディネーターに、生活の中で生じる様々な問題やニーズについて相談できる施設。

「バリアフリー温泉で家族旅行」は普通のガイドブックと違うところが結構多いんですよ。

まず、お宿の外観はほとんど載せていません。ホームページや他のガイドブックですぐに見ることができるような写真は省き、必要とされる方に伝えたい場所を一番大きく載せました。温泉の写真は大きく入れていますが、貸切風呂、家族風呂やバリアフリールームのお風呂など他のガイドブックにはあまり載っていないものばかりではないでしょうか。

また、障害の度合いによって入れそうだな、チャレンジしてみてほしいなというお風呂には「形状メモ」を入れました。同じ障害でも、足が地面から3cm上がる方と1cm上がる方とでは状況は全く異なります。洗い場の地面から湯船の淵までの高さや浴槽内の段差、それを使った場合の入浴方法まで、お宿の方にできるだけ詳しく教えていただきましたから、これなら入れそう!というお風呂を見つけていただきたいですね。

それぞれのお宿には「予約前のチェックポイント」のページをつけています。施設、入浴、食事、それぞれにどんなサービスや備品があるのか、食事などはアレンジ可能か、など、具体的に現地のバリアを把握した上で、宿泊を検討して、相談してみていただきたいと思っています。顔の見えない相手に相談や要望を伝えるのは難しいと思いますから、宿の方の顔も掲載させていただきました。きっと「この方になら相談しみよう」と思っていただけるのではないでしょうか。

この本にはきっとどのガイドブックよりたくさんトイレの写真がありますね(笑)。そこも大事な部分ですからしっかり載せました。 本を作る上で難しかったのは実用と旅情のバランスです。やっぱり温泉っていいな、行きたいな、という気分を盛り上げるような景色や、お料理の写真も重要だと思いますから、実用的な部分ばかりにならないよう、できる限り入れました。

実際の本作りのための取材では、「車椅子」の視点を考えたときに初めて気づくことが多かったですね。 例えば駐車場から玄関、お部屋までのアプローチ。部屋の中の様子から、部屋風呂や大浴場までの導線。意識してみると本当にたくさんのことに気付きます。例えば、スロープひとつとっても、急なスロープは自走の車椅子の方では登れません。ただスロープがあるかどうかだけではなく、その勾配にも着目するようになりました。こうしたことは私自身で気付いたこと以外にも、宿の方から教えていただいたことがとても多いです。やはり現場で日々いろいろなお客様と接してらっしゃるプロフェッショナル。取材中も、車椅子の方はこういうところを気にされますよ、とか、杖をついている方にはこちらのルートの方が楽ですよ、とか、具体的で細かな気遣いについては学ぶことばかりでした。

最初は写真を撮ったり、ヒアリングした内容をまとめたりといった形で取材をしていたのですが、写真や文章だけでは伝えきれないことも多いと感じるようになり、動画も撮影するようになりました。実際の動きを疑似体験すると、よりたくさんのことが見えてきます。今回、その一部を初めて公開します。

 

 

 

こんな風に、実際に歩き回って、取材をしている中で感じたのですが、バリアフリーな温泉って、私自身にとってもすごく楽なんですよね。手すりがあって助かるな、とか、階段がなくて楽だな、とか。ユニバーサルデザインとはよく言ったもので、お子さん連れのお母さんや、海外の方にとっても使いやすいだろうなと思いました。

介護が必要な家族を温泉へ連れて行きたいなと思ったとき、一番大切なこと。それはご家族の体の状態を知ることです。お宿への相談をする際に必須になる項目も本には収録していますから、ぜひ参考にしてください。アレルギーの有無からトイレの方法まで、案外知らないことも多いのではないでしょうか。日常のことを確認するだけですが、家族のことをきちんと知っておくことで、「知っていたらあれもできたのに!」という後悔を防ぐことができますよ。

ただひとつ、誤解をして欲しくないのは、この本の情報だけを見て、すぐに温泉に行ける!というわけではないということです。お宿の写真を見て、形状メモやポイントを読んで、ご自身や家族の状況と合わせて、行けるかどうかを判断してほしいんです。この本は、宿とお客様を結ぶコミュニケーションツールになるようにと思って作られていますから。 問い合わせや相談というのは、なんとなく気後れしてしまうものですよね。でも、この本にはそれを労力と思わず対応してくれる志のあるお宿を載せていますから、安心して相談してみてほしいと思います。 ただし、あくまでお宿はお宿であり、プロのいる介護福祉施設ではありませんから、全てをお任せしてしまうことはできません。時間はかかりますが、地域のバリアフリーツアーセンターに相談したり、外出支援の専門家であるトラベルヘルパー(※3)の手配なども検討しながら、無理のない旅行の計画を立てていただきたいと思います。 お宿の方々は「一人でも多くの方に、自分のところの温泉を楽しんでほしい」という純粋な思いから、さまざまなご相談にも真摯に寄り添ってくださいます。その志を信じて、ぜひ問い合わせをしてみていただきたいと思います。

※3 トラベルヘルパー:介護技術と旅の業務知識をそなえた「外出支援」の専門家。身体に不自由のある人や健康に不安がある人の希望に応じて、外出・旅行に関わる支援サービスを行う。

日本トラベルヘルパー協会 http://www.travelhelper.jp/

冒頭にも言いましたが、温泉って本当に世代を問わず楽しめるものなんですよ。「3世代、4世代で」と私はよく言いますが、そんな場所って他にないんです。日本人は温泉が大好き、というよりもアイデンティティーに近いと思っています。持っているものの価値というのは気付きにくいものですが、温泉というものの活用法や情緒の付加、そこに繰り広げられている文化というのは日本ならではのものだと思います。ニュージーランドなど、海外にも温泉はありますが、日本の宿場だったり、名物料理だったり、お土産だったりという文化の凝縮はそこにはありません。日本人が心の奥底で最も行きたいと思う場所、それが温泉だと思います。どんな年代の人も、どんな状態の人も、体を温め、心を癒してくれる温泉。「行きたい」という思いを諦めてしまう前に、この本をぜひ手に取っていただきたいと思います。

実際、この本を手に取っていただけたらそこがステップ1。そこから、ご家族のケースにあったお宿を検討してもらって、連絡、相談をするのがステップ2。その上で、万全の準備をしてからお宿に行くのがステップ3。時間や手間はかかりますが、しっかりとした下準備があってこそ、心に残るいい温泉旅行が実現できると思います。

 

最後に、山崎さんからコラム読者の皆さんへメッセージをいただきました!



身近に、温泉に行きたいけれど、諦めているという方はいませんか?3世代、4世代での家族旅行の計画にもおすすめの一冊です。日本初のバリアフリー温泉ガイドである「バリアフリー温泉で家族旅行」をぜひお手に取ってみてください。

 



 

 

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